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2019年2月21日木曜日

僕らの選択は操られていた - 行動経済学で見るテクニック

僕らの選択は操られていた

何かを購入しようとしているとき、普通の人は自分の頭で考え、自分の欲しいものを選択しているはずです。しかし、実際は自分の選択が売り手にコントロールされているということがよくあります。本当に必要なものは A なのに無意識に B を買っていた、ということがあるのです。なぜそのようなことがあり得るのでしょうか?

最初に印象に残った数字に影響される - アンカリング効果

服屋に入って24,000円の商品が並んでいる中に12,800円のジャケットを見つけたらお買い得に感じます。逆に、ほとんどの商品が8,000円でその中に12,800円のジャケットを見つけたら、今度は高すぎると感じるのではないでしょうか。

この例のように最初に見た数字が印象に残り、その後の選択や判断に影響がおよぶことがよくあります。これをアンカリング効果と言います。

アンカリング効果
anchoring effect 船が錨(アンカー)を降ろすと、錨と船を結ぶともづなの範囲しか動けないことからくる比喩。最初に印象に残った数字や物が、その後の判断に影響を及ぼすことをいう。

20世紀のある日、真珠王と呼ばれたジェームズ・アセールは、若いフランス人、ジャン=クロード・ブルイエと出会いました。ブルイエは、珊瑚島の海にはクロチョウガイがごろごろあり、その殻の中から黒真珠が出ると説明しました。

しかし、当時は黒真珠の需要がなくまったく売れませんでした。そこでアセールは黒真珠に法外な価格を付けて世界最高の宝石として「アンカリング」しました。その後、黒真珠はセレブたちが好む高級品になったのです。

これは現代でも新製品を発売するときに同じ事が言えます。最初に6万円で発売すると他に比較する物がないので妥当な価格かどうか分かりませんが、これを4万円に値下げすると、最初に6万円でアンカリングされているためお買い得に感じます。最初から4万円で発売するより、6万円から値下げする方が客が喜ぶのです。思い当たるケースがいくつかあるのではないでしょうか。

皆と同じものが欲しくなる - ソーシャル・プルーフ

最近はネット通販が便利です。わざわざ店まで買い物に行かなくても、ネットで探して購入すれば数日後には配達されています。ネット通販で購入するとき、他の利用者のレビューを参考にしている方も多いのではないのでしょうか。僕もネット通販買い物をするときは、A と B を比較して評価の高い方を選択することがよくあります。このように他の人に合わせることを「ソーシャル・プルーフ」と言います。

コリーン・ゾットという女性はこのソーシャル・プルーフを利用して、深夜の通販番組を大きく変えました。その通販番組ではそれまで「オペレーターがお待ちしています、お電話ください」というメッセージが流れていました。しかしコリーンがこのメッセージを「電話が繋がらないときはおかけ直しください」に変更するようにアドバイスすると、売上が倍増したといいます。なぜメッセージを変更しただけで売上が伸びたのでしょうか。

「オペレーターがお待ちしています、お電話ください」というメッセージでは、ガランとした部屋でオペレーターたちが暇そうに電話を待っている印象を受けます。一方、「電話が繋がらないときはおかけ直しください」だと電話がひっきりなしに鳴っていて他の利用者も商品を買いたがっている印象になります。そうすると、これは良い商品に違いないと考えて自分も欲しくなるのです。

ラーメン屋や定食屋が2軒並んでいて、一方は空いていてもう一方には行列ができているとします。そんな状況では行列ができている店の方が美味しいに違いないと考えてしまいませんか? 本当に美味しいかどうかは食べてみないと分からないはずなのに、皆が選んでいる店の方が魅力的に見えてしまいます。これもソーシャル・プルーフの一例と言えます。

CM などを見ても、「○万部突破!」「○万ダウンロード!」「売上No.1」などの売り文句を目にします。その狙いはもう明らかですよね。我々は人気商品や人気店の前では思考停止してしまうのです。

これが「ソーシャル・プルーフ」だ。つまり「ほかの人はどうしているだろう、ほかの人がやっていることは素晴らしいに違いないからやってみよう」と考えてしまうことだ。(中略)人間は本能的に、ほかの人がやっている行動は正しいはずだと思い込んでしまうからだ。

三択では真ん中を選びたくなる

次のような実験が実際にあります。あるグループにデジタルカメラを買ってもらいます。モデルは2つあり、1つ目のモデルは38,000円で、2つ目のモデルは76,000円です。どちらも同じブランドで妥当な価格が付けられています。この場合、2つのモデルが選ばれた割合に差はなくてどちらも50%でした。

次に、128,000円のモデルを追加して三択にします。この一番高いモデルがどれだけ選ばれようと、他の2つは先ほどと同じ条件なのでどちらも同じ割合だけ選ばれるはずです。ところが、一番高いモデルを追加したこの三択では、ほとんどの人が真ん中のモデルを選びました。

サン・ラファエレ生命健康大学のマッテオ・モッテルリーニ准教授は次のように考察します。

選択肢がふえると真ん中を選びたくなるのは、それがいちばんだと思わせるちょうどいい理由を見つけた気がするからなのだ。それがたちまちほかのものよりずっと便利で得がたい商品に見えてくる。

料理屋などでも「特上・上・中」とあれば「上」のコースが選ばれやすくなります。もし商売を始めるなら、高い商品を追加して本当に売りたい商品を真ん中に置くのが賢いやり方です。

デフォルトを選びたくなる - オプトイン・オプトアウト方式

オランダでは臓器提供者を増やすためにいろいろな努力をしてきましたが、臓器提供の意思のある人の割合はわずか28%でした(2003年)。一方、同じヨーロッパでもベルギーでの割合は98%となりました。この差はどうして生まれたのでしょうか。

ある国の臓器提供カードには「臓器提供プログラムに参加を希望する人はチェックしてください」と書いてあります。このように書かれていると、人はチェックをせずプログラムに参加しません。逆に臓器提供の意思のある人の割合が多い国では「参加を希望しない人はチェックしてください」と書いてあります。この場合でも人はチェックをしないので、プログラムに参加することになります。

このように人は判断が難しい選択ではデフォルト(初期値/標準設定)を選択する傾向があります。

「参加を希望する人はチェックしてください」という書式は「オプトイン方式」、「参加を希望しない人はチェックしてください」という書式は「オプトアウト方式」と言います。このような選択肢で人に良い行動をとらせることも悪い行動を取らせることもでき、これを「選択肢の設計」と言います。書式にはとても重要な意味があるのです。

これについてデューク大学のダン・アリエリー教授は次のように考察しています。

必ずしもそちらに進むように決められているわけではないが、別の選択をするより楽だ。また、デフォルトは一番楽だということに加え、デフォルトがお勧めだとみなされることもある。例えば、ある用紙を渡して「デフォルトはこれです」と言うと、それに従うのが楽なだけでなく、「この人はその道のプロとしてこれを勧めているんだろう。これがいいに違いない」と思ってしまう。つまり、一番楽だし、かつそれを提案されているとさえ思ってしまうんだ。

「おとり」で選択が操られる

マサチューセッツ工科大学の学生100人を対象に行われた調査では次のような結果になりました。

  • ウェブ版の購読(59ドル):16人
  • 印刷版の購読(125ドル):0人
  • 印刷版とウェブ版のセット購読(125ドル):84人

印刷版の購読をする人はおらず、セット購読に人気が集中しています。それでは、無意味な選択肢を除いた二択で同じ調査をするとどうなるでしょう。普通に考えると同じ結果になるはずです。

  • ウェブ版の購読(59ドル):68人
  • 印刷版とウェブ版のセット購読(125ドル):32人

なんと二択ではウェブ版の購読に人気が集まりました。無意味な選択肢を除いただけで結果が逆転しています。これはどういうことなのでしょうか。

ウェブ版の購読(59ドル)とセット購読(125ドル)の比較は難しい問題です。価格が異なるためどちらが得なのか分かりません。それに比べて、印刷版の購読(125ドル)とセット購読(125ドル)の比較は簡単です。どちらも同じ価格なので、明らかにセット購読の方が得だと分かります。そうすると、セット購読を選択するもっともらしい理由ができるので一番選ばれやすくなります。一見無意味な選択肢を「おとり」にして、一番売りたい商品を選ばせていたのです。

「エコノミスト」の場合、ウェブ版と印刷版のどちらを選ぶかは、少し考えないと決められない。考えるのはやっかいだし、わずらわしいときもある。そこで、「エコノミスト」のマーケティング担当者は、わたしたちが頭を悩ませなくてすむようにしてくれたわけだ。印刷版だけの購読と比べたとたん、印刷版とウェブ版のセット購読は、あきらかにまさって見える。

一般に、2つの選択肢 A と B があり相手に A を選ばせたい場合は、A によく似ているけど少し劣る A' を加えた三択にすると相手は A を選択しやすくなります。A と B の比較が難しいのに対して、A は A' より優れていることが分かっているため、B よりも優れているように見えてくるのです。


また、3つの選択肢のうち2つがよく似ているものの優劣が付けがたい場合には、3つ目の選択肢が選ばれやすくなります。たとえば、文房具屋でたくさん買い物をしたお客にプレゼントをする場合、500円をもらう、メタルのボールペンをもらう、少しデザインの異なるメタルのボールペンをもらうといった三択にすると、500円が選ばれやすくなります。これはよく似た選択肢は優劣が付けがたいため、それよりも500円の方に目が向くからです。